従業員の労務の提供地を判断基準の1つに
新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に普及したテレワーク。一部企業では、働き方の多様化を推進する観点から、
ポストコロナ禍でも勤務スタイルを原則テレワークとする動きがあり、従業員等の地方移住を認める会社もあるようだ。
原則テレワークの従業員等が、業務命令等に基づき遠方の自宅から一時的に出社する場合、交通費が高額となり非課税限度額を超えることも考えられる。
会社が交通費を実費精算する場合、従業員等の労務の提供地を「自宅」とし、社内規程を整備するなど一定の要件を充足すれば、
月額が15万円超であっても出張旅費として全額が給与課税されないという。
自宅―本社間移動は“勤務場所を離れて職務を遂行する旅行”に該当する?
所得税法上、会社が従業員等に対して金品等を支給すると経済的利益の供与として給与課税される。
ただ、通勤のために通常必要と認められ、最も経済的かつ合理的な経路及び方法による交通機関を利用した交通費は、
「通勤手当」として非課税限度額の月額15万円まで給与課税されず、15万円を超えた部分については給与課税される( 所法9 ①五、 所令20の2 一)。
一方、勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行した場合に、通常必要であると認められる交通費は、
「出張旅費」として 全額 が給与課税されない( 所法9 ①四)。
テレワークをする従業員等が、業務命令等に基づき一時出社する場合の交通費全額が給与課税されないためには、
自宅と本社等間の移動が、“勤務する場所を離れてその職務を遂行するための旅行”に該当する必要がある。
労務の提供地によって異なる結果に
“勤務する場所を離れてその職務を遂行するための旅行”の該当性は、実態に基づき判断することになるが、
テレワーク時の自宅と本社等間の移動については、従業員等の労務の提供地によって判断が異なるという。
ここでの労務の提供地は、労働契約(労働契約で明確になっていない場合はその他勤務地を定める書類など)における場所で判断する。
前提となる社内規程のチェックも必要
テレワークをする従業員等の労務の提供地が本社等の場合と自宅の場合における判断フローを比較すると、【参考1】のようになる。
■労務の提供地が「本社等」の場合
労務の提供地が「本社等」の場合、自宅と本社等間の移動は、“勤務する場所(本社等)を離れてその職務を遂行するための旅行”に該当しない。
ただ、最も経済的かつ合理的な経路及び方法による交通費を、通勤手当規程等に基づき実費精算していること、
別途定期代などの支給を受けていないことなどを満たせば、通勤手当として非課税限度額15万円までは給与課税されない。
例えば、【参考2】で従業員Aの労働契約上の労働の提供地が「本社」の場合を想定する。
大阪府内の自宅と東京都内の本社を行き来するときに利用する電車と新幹線の1か月分の交通費20万円
(通勤手当規定に基づき実費精算)のうち、5万円(=20万円―15万円)が給与課税される。
■労務の提供地が「自宅」の場合
一方、労務の提供地が「自宅」の場合は、旅費規程等に基づき実費精算していること、
別途通勤手当(定期代など)の支給を受けていないことを満たせば、
“勤務する場所(自宅)を離れてその職務を遂行するための旅行”に該当する。
例えば、【参考2】で従業員Aの労務の提供地が「自宅」で、1か月分の交通費20万円を、
旅費規程に基づき実費精算しており、別途、通勤手当の支給を受けていない場合は、
“勤務する場所を離れてその職務を遂行するための旅行”に該当する。
したがって、1か月分の交通費20万円の全額が出張旅費として給与課税されない。
仮に、労働契約上の労務の提供地が本社であっても、実態は「自宅」が労務の提供地といえる理由があり、
支給方法や金額が旅費規程に基づく支給と変わらない場合等は、
例外的に“勤務する場所を離れてその職務を遂行するための旅行”に該当するものとして扱ってよいとのことだ。
社会保険料は労務の提供地で判断
なお、テレワーク時に出社する場合に支給する交通費が、社会保険料の算定基礎となる「報酬」に該当するか否かは、
“労働契約上の労務の提供地”をもって判断する(日本年金機構「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱に関する事例集」在宅勤務・テレワークにおける交通費及び在宅勤務手当の取扱いについて)。
つまり、“労働契約上の労務の提供地”が「自宅」の場合は報酬に含まれない一方、
「本社等」の場合は報酬に含まれる。
編集者:ノノセ
(引用元:「週間税務通信 令和4年11月7日号」p4